「米国債約632兆円をヘッジファンドが動かす」長期金利4.81%、市場を揺らす新たな勢力

米国の長期金利が急上昇し、債券市場への不安が高まるなか、ヘッジファンドの存在感が増した米国債の需要構造が、市場の値動きを増幅させているとの分析が出ている。政府債務やインフレへの懸念が強まれば、利回りに敏感なヘッジファンドが一段と高い金利を求め、米政府の借入コストと財政負担が膨らむ可能性がある。
米財務省によると、6月末時点で英国の米国債保有残高は9,399億ドル(約149兆円)だった。日本の約176兆円に次いで、世界で2番目に多い。
英国は昨年、中国を抜いて米国債の保有額で世界2位に浮上した。国際金融センターのロンドンを経由し、ヘッジファンドの資金が大量に流入したことが背景にあるとの見方が出ている。
代表的なタックスヘイブン(租税回避地)であるケイマン諸島の米国債保有残高が4,342億ドル(約68兆6,000億円)に達していることにも、同様の資金の流れが反映されているとみられる。
ヘッジファンドが米国債市場に及ぼす影響力は、調査結果にも表れている。米連邦準備制度理事会(FRB)のチーフエコノミスト、フィリップ・モニン氏がまとめた報告書によると、2025年9月時点で、大手ヘッジファンドの米国債に対する総エクスポージャーは約4兆ドル(約632兆円)と推計された。2023年以降で約2倍に拡大したことになる。
このうち、国債価格の下落に備えるショートポジション(売り持ち)は1兆6,000億ドル(約253兆円)、国債を買い持ちするロングポジション(買い持ち)は2兆4,000億ドル(約379兆円)だった。ロングポジションだけでも、米国債の発行残高全体の8.5%に相当する。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「ヘッジファンドが中国や日本をはるかに上回る規模の米国債を保有しているだけでなく、米国の投資信託業界や銀行業界全体を上回ることを意味する」と指摘した。

米国債市場に流入する資金の性格が変化したことで、財政不安や物価上昇への懸念が、金利の動きにこれまで以上に敏感に反映される可能性もある。
かつては各国政府や中央銀行などの公的投資家が、米国債市場に安定した需要をもたらしていた。公的投資家は金利の変動に比較的左右されにくく、長期保有する傾向が強いため、市場の安全弁として機能してきた。
しかし近年は、短期的な利益を追求するヘッジファンドなど、民間投資家の比重が高まっている。ヘッジファンドが米国の財政赤字や債務返済負担をリスクと判断すれば、国債を購入する条件として、より高い利回りを求める可能性がある。
ロイター通信は「ヘッジファンドなど利回りに敏感な民間投資家が、中央銀行のような公的投資家を部分的に置き換えたことで、国債利回りへの上昇圧力が強まっている」と分析した。
2日のアジア時間の取引では、米10年物国債利回りが4.81%まで急上昇し、約3年ぶりの高水準を更新した。市場では、利回りが5%に迫れば、世界の金融市場が大きく動揺する可能性があるとの見方が広がった。
国内でも、10年物国債利回りが3%を超え、30年ぶりの高水準を記録した。オーストラリアの10年債利回りも5.198%まで上昇し、15年ぶりの高水準に達した。
サクソバンクの最高投資責任者(CIO)、チャル・チャナナ氏は「債券投資家は、インフレリスクや財政悪化、市場に供給され続ける膨大な量の国債を考慮し、次第に高いタームプレミアム(期間プレミアム)を要求するようになっている」と説明した。

