「日本の減税まで米国が決めるのか?」ベセント財務長官が高市政権に政策修正を要求、広がる反発

スコット・ベセント米財務長官が、金融政策にとどまらず、消費税減税や財政支出の方向性にまで公然と言及したことで、経済政策の自主性を巡る議論が広がっている。これまで日本との緊密な関係を強調してきたベセント氏が、米国の国益を優先し、国内の政策決定に過度に介入しているとの批判も出ている。政府・日銀内でも、米国からの圧力に対する不満がくすぶっている。
ベセント氏は9月1日、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、「日本はアベノミクスによって大きな成果を上げたため、今はリフレ政策を終えるべきだと伝えた」と述べた。
リフレ政策とは、財政支出や金融緩和を通じて景気と物価を押し上げる政策を指す。米財務長官が、高市早苗首相の景気刺激策に公然と修正を求めた形だ。
ベセント氏はこれまで、日本を「かつての米英関係のような特別な同盟国」と評価し、公然とした批判を控えてきた。しかし、国内の長期金利が30年ぶりに3%台へ上昇し、米国の金利も上昇する中で、その姿勢を変えたとの見方が出ている。
背景には、日本の機関投資家が米国債を売却して国内へ資金を戻せば、40兆ドル(約6,249兆円)の政府債務を抱える米国の資金調達コストが一段と上昇しかねないとの懸念がある。
米国側の要求は、日銀による利上げにとどまらない。ベセント氏は、日銀が金利を引き上げてもインフレ圧力が収まらなければ、高市政権の積極財政路線も見直すべきだとの立場を示している。
ブラウン米財務副長官はG20会議で、「日米両国は財政政策について率直に議論し、財政健全化の重要性を確認した」と述べた。ワシントンの日米外交筋も、協調介入の直後から、米国の対日協議の議題に財政問題が加わったと伝えた。
アベノミクスに投資し大きな利益 ソロス・ファンド時代からの「日本通」
ベセント氏による政策への言及は、今年初めから続いている。
1月に高市首相が衆議院の解散と消費税減税を表明すると、国債利回りが急上昇した。当時、米政府高官は日本側に対し、「このままでは高市政権は2022年の英国のトラス政権と同じ運命をたどる可能性がある」と警告したとされる。財源の裏付けに乏しい大規模減税によって国債利回りが急騰した「トラス・ショック」の再来を懸念したためだ。
ベセント氏は警告にとどまらず、外国為替市場にも直接関与した。米国は1月にドル・円相場のレートチェックを行い、7月末には円買いの協調介入に踏み切った。
金融政策に対するベセント氏の影響力が強まる中、市場では同氏を「影の日銀総裁」と呼ぶ表現まで登場した。日銀は独立した中央銀行であるにもかかわらず、米財務長官の発言に市場が敏感に反応する状況を皮肉ったものだ。
ベセント氏はもともと、日本経済や金融市場に詳しい人物として知られている。ジョージ・ソロス氏のソロス・ファンド・マネジメントで最高投資責任者(CIO)を務めていた2013年、アベノミクスと日銀の大規模な金融緩和を予測し、円安と日本株の上昇を見込んだ投資で大きな利益を上げた。
政策転換を読み取って投資を成功させた経験は、ベセント氏が「日本通」と評価される理由の一つだ。国内市場を熟知する人物が、現在は米財務長官として政策転換を迫っている点にも関心が集まっている。
問題視されているのは、その影響力が財政政策にまで及んでいることだ。消費税減税を巡り、ある米政府高官は「そのまま減税を実施するのか、インフレ抑制を選ぶのか。私なら後者を優先する」と述べた。
減税の是非は、政府と国会が国民負担や景気、財政状況を踏まえて判断する問題だ。米国が自国の国債市場の安定を理由に、税制や予算の方向性にまで注文を付けるのは、同盟国間の政策協調の範囲を超えているとの批判も出ている。
政府・日銀内でも不満が出ている。財政・金融当局の関係者は「そもそも世界的な金利上昇の主因はイランへの攻撃だ。米国こそが元凶だ」と主張した。米国の軍事行動や財政赤字も世界的な金利上昇に影響しているにもかかわらず、日本側にだけ政策の修正を求めるのは不当だとの認識を示したものだ。
ベセント氏は、米国自身の財政健全化計画を近く発表すると明らかにしているが、市場の反応は鈍い。
2027年度一般会計予算の概算要求総額は143兆円に達し、4年連続で過去最大を更新した。今後の予算編成過程で金利が再び上昇すれば、米国からの圧力がさらに強まる可能性がある。
円相場と国債市場の安定には米国との協力が欠かせない一方、財政政策の自主性をどう確保するかという難しい課題に直面している。
国際法上、他国の経済政策に意見を伝える行為を直ちに違法な内政干渉と断定することはできない。ただ、為替安定や外交的支援を交渉材料に、減税や財政支出の方向性にまで修正を求めるのであれば、政治的に財政主権を巡る議論は避けられない。
日本経済新聞は、1987年のブラックマンデー当時、米国と西ドイツの金融政策協調が崩れた事例を挙げ、「通貨と金利の安定には日米関係の安定も重要だ」と指摘した。
