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2026年9月1日(火) 東京 --

「レコード84億円」若者が昭和に回帰 “不便さ”が新しい体験になる

引用:depositphotos
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「スナックでビールを一杯飲みながら、店員や一人で来た客と気軽に会話を交わし、シティポップを聴いてリラックスします」

東京に住む20代の会社員Aさんは、仕事帰りに昭和風のレトロなスナックやカクテルバーをよく訪れる。Aさんは「昭和の野暮ったくも華やかなインテリアに親しみを感じます。ネオンサインの下を歩くと、自分が生きたことのない時代に触れているような気分になります」と話した。

スナックや大衆酒場、純喫茶など、昭和を象徴する空間が若者たちの新たな憩いの場となっている。高度成長期を経てバブル直前へと向かった1980年代の昭和後期は、日本経済が最も輝いた「黄金期」として記憶されている。1990年代以降の景気低迷による「失われた30年」を生きてきた若者たちは、レトロな空間を通じ、自ら経験したことのない過去の豊かさや活気を間接的に体験しているのだ。

◇ アプリで予約する「ニュースナック」「ネオ大衆酒場」、Z世代に人気

Z世代の間では、従来のスナックの敷居を低くした「ニュースナック」が人気を集めている。昭和風のインテリアや音楽は残しながら、料金を明確にしてアプリ予約に対応するなど、昔ながらの雰囲気と現代的な利用方法を組み合わせている。若い経営者が老舗を引き継いだり、昭和風の内装に新たな感覚を取り入れたりするケースも増えている。

スナックの魅力は、酒や歌だけではない。SNSや職場、マッチングアプリなどで相手の気持ちに合わせなければならないというプレッシャーを感じる若者にとって、スナックは「話さなくてもいられる場所」だ。会話に明確な目的や結論がなくてもよく、客同士が親しくなる必要もない。ほどよい距離感が、かえって心地よさをもたらしている。

大衆酒場も「ネオ大衆酒場」へと姿を変え、若者を呼び込んでいる。1,000円前後で酒とつまみを楽しむ「せんべろ」文化は、物価高の中で出費を抑えたいというニーズと合致している。安くておいしい料理にワインやクラフトビールなどを組み合わせた店も登場した。

純喫茶では、クリームソーダやプリンアラモード、ナポリタンといった昔ながらのメニューが、新たな体験として楽しまれている。色鮮やかな飲み物と年季の入った家具、ステンドグラスや照明が調和した空間はSNSを通じて広まり、若い女性客にとって一風変わった体験の場となっている。

引用:お台場レトロミュージアム
引用:お台場レトロミュージアム

◇ LPで「青い珊瑚礁」をじっくり聴き、昔ながらの温泉へ

昭和レトロブームは、音楽や旅行文化にも影響を及ぼしている。70~80年代のシティポップは、YouTubeショートやTikTokのBGMとして再発見された。松原みきの「真夜中のドア~stay with me」や松田聖子の「青い珊瑚礁」が代表的だ。

関心はLPの購入やレコード店を訪れることにも広がっている。日本レコード協会によると、2025年のアナログレコードは生産数量、金額ともに5年連続で増加した。生産金額は84億4,100万円に達し、1988年以来37年ぶりに80億円を超えた。音楽ソフト全体の生産額は前年比5%増の2,157億円を記録した。

LPはストリーミングとは異なり、ジャケットを選び、レコードを取り出し、ターンテーブルで針を落とさなければならない。すぐに次の曲へ進めない不便さや、そうした一連の手順そのものが、ほかにはない体験として受け入れられている。AIやスマートフォンを日頃から使う若者たちが、むしろ時間をかけて音楽を聴くスタイルを選んでいるのだ。

昭和の面影を残す温泉街も、新たな観光地として注目を集めている。長野県千曲市の戸倉上山田温泉は、バブル期には年間約140万人が訪れていたが、その後は急減した。しかし、開発があまり進まなかったことで残った昔ながらの街並みやネオン、射的場、古い温泉施設などが若い旅行者の関心を引いている。地元の観光当局によると、観光客の約30%を20~30代が占める。

若者たちは、ここで温泉だけを楽しむわけではない。70~80年代の音楽を聴きながら街を歩き、レトロな喫茶店でコーヒーやプリンを味わい、夜にはスナックや大衆酒場を訪れる。温泉街そのものを一つの体験型コンテンツとして消費しているのだ。

引用:戸倉上山田温泉のホームページ
引用:戸倉上山田温泉のホームページ

◇ コロナ不況後、「日本経済の黄金期」の再現で若者の不安を和らげる

若者の間で昭和レトロブームが広がった背景には、コロナ禍による不況を経て、ミレニアル世代やZ世代が対面での人間関係を見直すようになったという時代背景がある。物価高も影響している。高額な海外旅行の代わりに近場の温泉街や喫茶店、大衆酒場を訪れ、少ない費用で旅行や食事、文化を一度に楽しんでいるのだ。

景気低迷に疲れた若者たちは、日本が最も華やかだった黄金期を体験することで、日々の暮らしの厳しさを和らげているともいえる。専門家らは、こうした流れが「過去への郷愁」であると同時に、「現在の不安を和らげる文化的な装置」でもあると分析している。

大阪公立大学大学院文学研究科文化構想学専攻の天野景太准教授は、昭和レトロ文化を楽しむ若い世代について「昔を懐かしんでいるのではなく、自分の知らない『新しい文化』として関心を持っている」と指摘した。天野准教授は、この現象の背景に「ライトエキゾチシズム(気軽に異国情緒を感じること)」があると説明している。「若い世代が異国的だと感じる対象が、外国や江戸時代の建築物ではなく、身近な昭和の街並みや文化へと移ってきた」という。

一方では、SNSを通じて広がったレトロブームが一過性の流行に終わる可能性も指摘されている。人気店に来店客が集中して混雑が生じたり、地域住民の生活空間が撮影場所としてだけ消費される懸念もある。それでも、昭和レトロブームには、衰退しつつあった商店や温泉街の再生、世代間の文化継承につながる可能性があるとの評価も出ている。「レトロ」、古びつつある日本を救う新たな切り札となるのか、注目される。

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